おおかみこどもの雨と雪

・異種恋愛ものとしては滅亡した世界の上で二人が一緒になるポニョの力技路線とアリエッティの現実主義の間をとったような位置取り。現実の社会の上に狼男とヒロイン花の恋愛とその成果を定着させるのに腐心している。二人の恋愛は無論フィクションだが、その二人が現実に生きていくことについて真面目に考えている。金銭的自立もそのひとつである。

この映画の後半は子供の自立をテーマにしているが、登場人物すべてに共通する自立への強い志向は、映画自体がフィクションを現実に根付かせようとしたときに生じるものでもあったと思う。この映画の、超現実的設定を狼人間だけに絞るというつくりかたが、登場人物の金銭的自立への過剰なまでの言及を要請している。(これは前作サマーウォーズとのはっきりとした態度の違い。)花は奨学金で国立大学に通い、自然分娩を選択し、本の知識だけを参照して田舎で畑仕事を始める。貯金で生活していることを口にするし、狼男の残したものは免許証が入った財布と、そこに入っていた千円札二枚。

そのような世界では子供は子供のままでいることができない。いずれ親の許をでて自立しなければならない。永遠に続くかに思われた雪のうえでの親子三人の遊びの時間はやがて訪れる死の予感によって中断される。そこから描かれる二人の子供の意識の目覚め(人間世界で獣性を隠しながら生きていこうとする雨と、「先生」のもとで自分が狼であることを認めながら生きていこうとする雪)、最後の雨の親との別れは素晴らしかった。

花の過剰な自立心により、花自身の身体に現実ではありえないような負担がかかっている点は賛否別れそうな気がする。その自立心を強さとして肯定しすぎるのは気持ち悪いと思うが、この映画では最終的に田舎でまわりの人々と物々交換して頼りあって生きていくことについても描かれていたのでバランスはとれていた。


・観てていいなと思ったのは、先述した雪の上を三人がすべるシーン、時間経過を一年から六年まで順に並んだ教室間を移動する子供とそれを廊下側から捉えたカメラで表現したシーン、雪が自分が狼の子であることを告白したときのカーテン越しに彼女を捉えたシーン。狼男の死をロングで橋から撮り続けるところなど、全体的に過剰にならない演出で良かった。

・現実の映像を加工したのかというくらいリアルな蜘蛛の巣やガラス瓶のCG?はフィクションを現実に入れ込むという上で書いた話と関連付けられる気もする。