この空の花

大林宣彦監督
「ここにいるよりそっちにいると(カメラ・観客席の側を指差す)、みんなで褒めてくれているなあとニコニコしていられるのだけれど。この真ん中にはいるとこんなことでいいのかと、ちょっと今おびえていますけどね。まあみなさん本当に年長者に対して礼儀正しい方で、ボクは今74歳でねえ、世間じゃジジイというんだけれど、あたしゃベテランの少年だとがんばっていますがね。ましかし、昔ならもう引退して代を譲っている歳であって、ここにいるみなさんが、若い人といっちゃいけない、今の時代を作っている時代の中心にいる人たちで、そのなかにジイさんが一人挟まっておびえてますが。

最初にまずレンズの向こう側のみなさんにね、ありがとうと。ありがとうございます、と心からいいたいですよ。いやーこのツイッターねえ、びっくりしましたよ。毎日こんなにプリントアウトしてくれるのでね。これを読んでいて、まあこの熱い熱い想いがねえ、てんでんばらばらにいろんな角度から飛んできて。それ見てたらね、「あ、これ『この空の花』の映画とそっくりだ」と。つまりバラバラに熱いものが点在してるんだけどもそれがスウーッっとひとつに繋がっていくというね。そういう体験を僕はしてそれがとっても幸福でねえ。なにかこのツイッターによってみなさんが、本来バラバラの、映画もになっていないようなバラバラのフィルムの断片をね、つなげてくださっているのではないか。

つまり映画というものはね。伝えるために作るのであって、伝えるということはつながらなければ意味がないのだけれども。そして普段はどう伝えてどう繋がって、泣いてもらったり笑ってもらったりしようかという、まあもてなしをするんですが、この映画はねえそういう余裕が無い。2011年3月11日というね、僕たちがなんにも表現することができない心のスクリーンが真っ白になった、でもその時になにかを言わなければなんない、伝わらなくても言いたい、ということをね、ほんともう断片的に、ボクの熱い思いだけで、あのとっちらかすようにね、フィルムに焼きこんでしまった。それをね、みなさんが掬い取って繋いでくださって、そしてこの熱さがひとつになって世界に繋がっていってるってことはこれは本当に、ああ生きていて良かったなと。みなさんがいまここに私を存在させてくださっているんですよね。しかも存在している私はここで生かしてもらってるわけだから。こんな幸せなことはないんで。ともかくありがとうございました。と過去形でいっちゃいけないんだな。ありがとうございます。…」

2012年5月29日DOMMUNE「『この空の花』を語る」より
中森明夫井口昇北沢夏音がそれぞれ『この花の空』について軽く語り、その後マイクを持って冒頭の挨拶。