落合采配について

一応話題確認。本日ナゴヤドームで行われた日本シリーズ第五戦、中日先発の山井が8回までパーフェクトピッチングをしていた。これであと一回を無事に終えれば、ノーノー達成と日本一が同時に起こるという史上初の出来事。当然ドームも盛り上がる。そして、0-1で迎えた9回の表、大記録を前にして落合監督が取った采配は、ピッチャー交代、岩瀬。


パーフェクトの投手に継投を出すことはシーズン中でもまずない。監督は日本シリーズであればこそ、普段の勝ち方がしたかったのだろう。高名のきのぼりといいしをのこ 云々という故事もある。53年ぶりの日本一を前にして、手綱を緩めて負けたくは無かったのかもしれない。だが勿論、完全試合を捨ててまで岩瀬を出す必要があったのか、これは落合監督の自己満足だ、という考えもあるだろう。この問題に対する反応と個人的な意見でも書ければと思う。

問題になるのは山井の球数がまだ86球であるままに岩瀬を出したことで、一点差とはいえこの球数で替えるのは無いんじゃないか、という議論は当然出てくる。玉木正之はブログで「これが野球だというのであれば俺は野球ファンをやめる!これが落合野球やというなら…。サッサと辞めてほしい」*1と言い、優勝へのコメントも取り下げると書いている。またサンスポは采配に対する緊急アンケートをしているが、題名が「非情采配に対する緊急アンケート」である。その時点で価値判断を多分に含んでいてなかなか面白い。
今回の事件が非難されるのは、個人記録と勝利、観客(楽しさ)と勝利という二つの問題においてでであり、双方の対立軸において落合監督が勝利以外の要素をあっさりと切り捨てているように見えるという点から批判の多くが出されている。「非情」と口にするサンスポは前者であり、玉木氏の批判は後者の軸にのっとっていると言えよう。

森祇晶などもこの問題に悩まされた監督である。西武の監督時代、チームを勝たせることを至上命題とした彼は、バントの多用に代表されるチームのための野球を行った。彼はチームを9年間で8回のリーグ優勝(うち6回は日本一)という偉業を達成するが、あまりにも勝つ、そして無難に勝つため、バント多用に代表される彼の戦術にはつまらないというレッテルが貼られることとなる。実際観客動員数は少しずつ落ちてゆき、彼は最後の年優勝を報告する席で、オーナーの口にした「やりたければ、来年もやれば」というあまりにも投げやりな言葉を前に、監督の職を下りるのである。
森監督は自著で、世間の風評に対してこう反論している。なんといわれようと勝つことこそが重要であり、集客力の下落は企業努力の不足に過ぎない。点を取る確率を少しでも上げるためのバントの何が悪いか。寧ろその努力をしない他球団こそが咎められるべきではないのか。と。*2

さて、それではこのレトリックをそのまま使わせてもらおう。つまり、今回の継投は少しでも勝つ確率を上げる為にやったことであり、球威の落ちていた山井を替えるのは当然である。その最善の努力を前につまらない野球などと言うのは筋違いも甚だしい。両チームの死闘を見て楽しむことが出来ぬリテラシーの低い自分をこそ羞じるべきである、とこうなる。従って後者のタイプの批判は野暮であると言ってしまおう。分業化、継投が当たり前となっている現代野球で個人でのパーフェクトだけを問題にすることはない。ノーヒットノーランは継投であっても十分偉大であり、寧ろこの試合がそれを証明している。この継投が新しい評価の始まるメルクマールになるかもしれないのだ。


だが未だ残るのは個人記録を捨てられた山井投手、という問題である。いくらここで継投が偉大云々といっても、投げていた本人が完全試合を望んでいたならば、それをとめたことでチームへの不満が出るのは当然である。そしてそのような禍根を残す采配をよいということは出来ない。だが、私がここまで文を書いているうちに山井選手本人の談話があがってきてしまった。『「最後は岩瀬さんに…」中日・山井、自ら降板願い出る』*3こうなれば私などがぐだぐだ書く必要もあるまい。テイウカ今知ったんだけど山井投手肉刺潰してたってテレビで言ってたってよ。俺なんのためにこんなたくさん屁理屈かいてきたんだろうorz そして玉木正之やくみつるなど、落合批判論者もなんていうかお疲れ様です…。


まあ兎に角、中日ドラゴンズ優勝オメデトウ。53年ぶりですか。
そして来年こそはわが横浜にもチャンスを。

*1:http://www.tamakimasayuki.com/

*2:中学生だった私はその本に大いに影響を受け、長嶋監督はミラクルなんぞといっているが、その劇的勝利の為の采配で犠牲になった多くの地味な勝ちのことを考えろ、などと言っていた。高校に入り、横浜に森監督が来たときは物凄く喜んだ記憶がある。

*3:http://www.sanspo.com/sokuho/071101/sokuho058.html「最後は岩瀬さんに…」中日・山井、自ら降板願い出る