最近一日で動ける時間が平均して数時間しか無い。あとの時間はどうしているのか。布団の中にいる。すでに毒虫になったグレゴール・ザムザこと俺にも、それなりに人生がある。ご飯を食べたり、料理をしたり、珈琲をいれたりするくらいだが……。昨夜長い日記を書いたらスッキリした。アウトプットの不足が体に悪いものをタメていたのだな、と思ったが、結局日中はなにもできない状態で布団にいたので、あんまり関係ないかもしれない。家を出ていないのに鼻がぐずつく。花粉がすごい。

今年はダメだが、小沢健二の新曲が良かったとか、小沢健二峯田和伸の歌うある光が良かったとか、俺が好きな人とたまに会ってご飯を食べたり夕日を見たりしているとか、いいこともたくさんあって生きている。ルドンの展覧会もあった。三菱一号館が買った大きな花の絵は、ルドンが手掛けたドムシー男爵の城の食堂の内装のうち、最後まで残してあった一枚。食堂を飾るので寒色を排してくれという指示の下、木の葉の黄色やピンクの壁と赤い実などがモチーフになるいくつかの絵の中で、この一枚だけ大きな青い花瓶がでんと描かれており、そこにたくさんの花が活けてある。この絵がが手放されて、三菱が買ったのが2011年だと思う。その年に偶然一人でパリに行ったので、グラン・パレでやっていた展覧会で初公開されたのを見ている。パリに着いた日で、その日の宿も取ってなかったかもしれない。街でスーツケースをひいていたら、馬の糞を踏んだ。ウソみたいな話だが本当だ。並んでいる行列の最後尾で待ったらそれはアニス・カプーアの巨大風船の中に入る列で、ルドンのほうはさほど待たずに入れた。

そこでルドンのことがすっかり好きになってしまった。版画集が全て揃っていたこと、そしてなにより大きなパステルや油彩のものが多数あったこと。色が素晴らしい。もともと好きではあったけど、黒い版画のイメージで妙に文学的だなあと思っていたが、ただ絵が綺麗なんだ。その時買った図録は大切にしている。優しさがあり、美しさがある。宗教的な主題の絵にそれがもっとも強く感じられる。

今回の展覧会はそのグラン・ブーケを中心とした食堂装飾の絵をメインに、100点近い絵画が公開されている。先日ひとりで観に行った。一番好きな種類のものはそう多くなかったが、それでも好きな人の作品がこれだけ見られるのはとてもうれしい。一号館はグッズも充実しているし、バンドの物販みたいな感覚だ。空いていたので残念だけど、観る方としてはラッキーとも言える。「エジプトへの逃避」(オルセー美術館)、「神秘的な対話」(岐阜美術館)、「花とナナカマドの実」(オルセー美術館)、「花:ひなげしとマーガレット」(シカゴ美術館)あたりが良かった。土田麦僊が一万フランでルドンの絵を買いつけて、転売してルノワールを書い直そうかと迷ったがやめてそのままルドンを持ち帰った、という話もよかった。それも良い絵だった。

良かったことをかくのは良い。そんな感じです。