風立ちぬ

・結構前に観た。羅列的にメモ。
・でもやるんだよ、の映画。どんな事態が起こっていようとやるべきことをする、そしてそれが二郎にとっては美の追求であった。そういう映画の割りには、動画自体の美しいシーンをあまり思い出せない。脚本を放棄して絵の美しさだけを追求していた宮崎駿のアニメ作りが、ここにきて宮崎の主張そのものと現実に縛られて別のものを求めてしまったのではとも感じた。夢の中ではもうすこし暴れても良かったのではないか。そしてメフィストフェレスとしてのカプローニ、あるいは夢、の悪魔性があまり絵からは感じ取れないのが悔しかった。それは歴史自体と最後の墜落した戦闘機の積み上がったシーンで感じるべきだったのかもしれない。二郎の自覚のあるエゴイズムは、堀辰雄風立ちぬ」の主人公のそれと似ているが宮崎のほうが力強い。主人公のエゴイズムに共犯的に寄り添うという意味では、小説の節子もアニメの菜穂子と似た行動をとっているが、やはりここも宮崎の菜穂子のほうが力強い。宮崎駿が言いたいことを言っている点、そして彼の分身の二郎に庵野秀明が声をあてている点にも心を動かされる。結婚式で差し出したおちょこの中に酒が注ぎ込まれるシーンを覚えている。底にある赤い絵付けが波うつ酒の中にふっと溶けて、また元に戻った。虹彩がくるくると回転するドイツ人の異物感が良かった。
・最後の菜穂子の台詞、絵コンテでははじめ「生きて」ではなく、「来て」だったらしい。後者のままだったらエンディングの荒井由実ひこうき雲」は本当にピッタリだと思う。映画としては、生きてのほうが凄まじいので良いと思う。